公衆衛生医師について


公衆衛生医師になるには

更新:平成29年2月3日


公衆衛生医師とは?

 公衆衛生の定義として最もよく知られているのは、アメリカの公衆衛生学者Winslowのものです。
「公衆衛生とは、生活環境衛生の整備、感染症の予防、個人衛生に関する衛生教育、疾病の早期診断と治療のための医療・看護サービスの組織化、および地域のすべての人々に健康保持に必要な生活水準を保証する社会機構の整備を目的とした地域社会の組織的努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延ばし、身体的・精神的健康と能率の増進を図る科学であり技術である。」(1920年)

 公衆衛生には多くの分野があり、世界中のさまざまな場所で働く医師がいますが、全国の保健所や都道府県庁など地域保健分野で働く医師もその一人です。ここでは「公衆衛生医師」と呼ぶことにします。

 公衆衛生医師は、病院や診療所等といった医療機関の臨床現場で働く医師とは仕事内容が大きく異なることもあり、一般市民からだけではなく、医療従事者からもどのような仕事をしているのか十分理解されていないのが現状です。

 これまで公衆衛生医師は、感染症、母子保健、生活習慣病・がん、難病、精神保健福祉、食品や環境などに関する生活衛生、医事・薬事などの分野で取り組みを行ってきました。加えて近年では、地域包括ケアシステムの推進や健康危機管理への取り組みなど、一つの専門性だけでは解決できない課題に対して、医療や介護・福祉の専門職、地域住民を含む関係者、関係機関等と協働しながら行政の立場から対策を講じていくような仕事に、全国の公衆衛生医師たちが取り組んでいます。

 全国の都道府県や、政令市・中核市は、地域保健法に基づいて保健所を設置することが定められています。また、保健所長は原則として医師であることも定められています。

 そのため、保健所を設置している全国の自治体では、保健所長をはじめとした地域保健分野で働く医師を公衆衛生医師として雇用していますが、その多くははじめから公衆衛生分野で働いていたわけではなく、5年から10年、中には30年近く臨床分野で働いた後に転職してきた医師たちです。各自治体に就職した後に、地域保健分野の実務経験や様々な研修等を通じてスキルアップを図りながら、公衆衛生医師として勤務を続けています。

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業務内容

 地域保健分野で働く公衆衛生医師は、都道府県の場合は保健所や本庁と呼ばれる都道府県庁など、政令市・中核市の場合は保健所や保健センター、市役所などで勤務していますが、その仕事内容は働く自治体や勤務先によって様々です。

 都道府県型の保健所の場合は、感染症、母子保健、生活習慣病・がん・難病、精神保健福祉、食品や環境などに関する生活衛生、医事・薬事などの業務に加え、近年では管内の病院や医師会、市町村、介護や福祉関係機関などの関係機関や団体と連携しながら、地域の救急医療、災害医療、へき地医療、小児科・産科医療体制の整備、健康危機管理体制の整備、地域包括ケアシステムの推進等に関する調整を行うなど、地域における健康や医療の課題解決に向けた連携・調整を図る仕事をしています。

 一方、政令市・中核市型の保健所の場合は、上記に加えて、市町村が実施主体となっている乳幼児健診やワクチン接種などの母子保健事業、特定健診や特定保健指導などの成人保健事業なども合わせて行っています。

 また、本庁と呼ばれる都道府県庁や市役所では、感染症、精神保健福祉、生活習慣病・がん、難病など、それぞれの分野の事業に関する予算獲得や計画策定、システムづくりなどの業務に加え、それぞれの自治体議会での質問に対する答弁対応なども行っています。

 このような仕事を進める上では、医療職、事務職を問わず様々な職種の人たちと連携して仕事を進めることが多く、コミュニケーション能力やマネジメント能力を含めて行政職としてのスキルも身につける必要があるため、「医師である」というだけでは務まらない仕事です。

 保健所や本庁などに勤務する医師は、直接患者さんと接する仕事はほとんどありません。しかしその一方で、一般的な臨床医では携わることができない、地域の住民全体を対象とした仕組み・ルール・システムづくりといった仕事を通じて、地域の医療や健康レベルの維持向上に貢献できる仕事ができるため、仕事の達成感は非常に大きいものがあります。

 

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必要な能力

 地域保健分野で働く公衆衛生医師に求められる能力としては、一般的な医学の知識はもちろんですが、疫学の知識やそれを用いて地域の健康課題を明らかにできる能力が求められます。これは臨床医で言うところの診断能力に該当すると考えられます。

 さらに、地域の健康課題を改善するためには、何らかの対策を進めていく必要がありますので、その対策を進めるために「組織」を動かす必要があります。それは自身が所属する組織であったり、他の関係機関であったりしますが、それら組織をマネジメントする能力が求められ、これは臨床医で言えば全人的医療を提供することと似ているかもしれません。

 関係者や関係機関・団体とコミュニケーションを図りながら仕事を進めていく必要があるため、高いコミュニケーション能力が必要となる一方で、業務の中では感染症や食中毒、医療安全や児童虐待など健康に関する危機管理を取り扱うことから、健康危機管理と呼ばれる危機管理能力も求められます。

 また、都道府県や政令市・中核市といった地方自治体の職員として働くことから、人間の生命を守る医師としての倫理観だけではなく、公平・公正な公務員としての倫理観も併せて求められます。さらに、予算調整、議会対応から報道対応など行政職員としての能力も必要です。

 保健所長は原則として医師でなければならないと定められているため、保健所長になるには医師免許を持っている必要がありますが、基本的にそれ以外には必須となる資格や経験はありません。ただし、自治体によっては取得学位や専門科目、公衆衛生の実務経験などを採用条件にしているところがありますので、詳しくは各自治体にお問い合わせください。

 

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キャリアパスや待遇

 全国の都道府県や、政令市・中核市と呼ばれる地域の中核となる都市においては、地域保健法に基づいて保健所を設置することが定められています。また、保健所長は原則として医師であることも定められています。

 そのため、多くの公衆衛生医師の勤務先は保健所ということになりますが、そのほかにも、例えば政令市などでは市民に身近な保健サービスを提供するための保健センター、都道府県では都道府県庁の医療・保健政策を担当する部局など、医師としての資格だけではなく、その知識や経験などが活かせる場所が勤務先となります。

 各自治体に就職した後のキャリアパスは、自治体によってバリエーションがあり、また採用される年数(医歴)によっても異なります。臨床研修終了直後に公衆衛生医師として自治体に就職した場合は「技師級」として採用され、保健所や本庁と呼ばれる都道府県庁などで経験を積んでいきます。その後、実務経験や各種研修などを経て「係長級」「課長補佐級」へと昇進し、早くて40歳前後で管理職である「課長級」となって、保健所長や本庁の課長となります(階級名等は自治体によって異なります)。

 臨床など他分野の経験を積んでから就職する医師の場合は、その経験年数等に応じて「係長級」「課長補佐級」として採用され、一定の実務経験や研修などを経て「課長級」に昇進していきます。その後は、本人の資質に応じて「次長級」「部長級」へと昇進し、自治体の幹部職員として働くこととなります(自治体によっては、30歳前後で保健所長になるために課長級以上に昇進する場合もあります)。

 公衆衛生医師の待遇については、病院等医療機関に勤務する医師に比べると年収は決して高くはありません。一例として、30歳前後の技師級で年収約800万円前後、35歳前後の係長級で約950万円前後、37歳前後の課長補佐級で約1050万円前後、45歳前後の課長級で約1300万円前後、50歳前後の次長級で1400万円前後が目安となりますが、実際には各自治体によって様々です。やりがいやワークライフバランス等を考えて、公衆衛生医師を選択する場合が多いようです。

 

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募集と採用

 地域保健分野で働く公衆衛生医師の採用基準は、全国の各自治体によって様々で、一部には40歳までといった年齢制限を設けている自治体もありますが、多くは60歳程度まで特に制限を設けていません。臨床研修を終えたばかりの新卒の医師ももちろん採用されていますが、臨床など他分野の経験を積んだ40~50歳代の医師にもそれまでの経験を活かした仕事が期待されており、積極的に採用されています。

 公衆衛生医師の募集は、全国の都道府県や政令市・中核市がそれぞれに行っています。全国の各自治体が毎年募集・採用を行っているわけではなく、欠員に応じて随時募集・採用を行っている自治体も多いので、まずは就職を希望される自治体のWebサイトを参照していただくか、担当部局に直接お問い合わせください。

 募集情報については、臨床分野のように医師専用の就職・転職サイトに求人情報が掲載されることはあまりありません。そのため、求人情報を得るためには各自治体のWebサイトなどを参照していただくことが基本となりますが、厚生労働省の「公衆衛生医師確保推進登録事業」や、全国保健所長会の「公衆衛生医師募集情報」などからも情報にアクセスできますので、ぜひご活用ください。

 

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活躍・メッセージ

参考

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