image  研究事業(その他)


掲載:平成17年11月21日 ・ 更新:平成20年4月5日

新型インフルエンザ 事前準備と大流行時の緊急対応

国立感染症研究所 ウイルス第3部
WHOインフルエンザ協力センター
WHO H5N1インフルエンザ検査ネットワーク
WHO IHR専門委員
田代 眞人先生 

東京都港区みなと保健所主催講演会平成20年3月

2003年後半以来、H5N1型ウイルスは北半球の冬季を中心に流行を繰り返している。2005年の後半以来、流行地域が変化してきている。


強毒型鳥インフルエンザ H5N1流行 2003-2008


多数の国、広い地域での同時流行
3億万羽以上のニワトリ、アヒルが死亡、処分
広い宿主動物域、強い病原性(致死性の全身感染)
ニワトリ、アヒル、カモ、野鳥、トラ、ネコ、ネズミ、   イヌ、フェレット、ウサギ、ジャコウネコ、テン、ブタ
流行地域でのヒト感染患者(重症、高致死率)の発生
新型インフルエンザ(強毒型ウイルスによる)発生の可能性
農業・経済上の問題
対策の遅れ

新型インフルエンザの大流行はあるのか?


答え: ある!
何時、どの亜型、どの程度の病原性かは予測不可能。・・・・・しかし、何時か必ず起こる。
H5亜型の可能性は高まってきている。 ヒト型に近づきつつある
人に対する強毒性が保持(増強)される可能性が高い
・ 強毒性を規定する遺伝子変化を継承
・ 大流行を起こすには、感染患者が市中で大量にウイルスを排泄する必要がある。そのためには、
病原性がある程度(致死率が20%以下?)弱まることが必要?
H9,H7,H2, H6亜型などの可能性もある。

抗ウイルス剤の使用政策


新型インフルエンザ出現時には、早期のワクチン大量供給は不可能であり、抗インフルエンザ薬の使用は不可欠である。
緊急増産、緊急輸入は不可能、事前備蓄が不可欠。備蓄方法、使用方法を策定しておくことが必要
優先投与対象群
投与方式(予防、治療)
備蓄量(患者数; 第2、第3波の可能性)
予算措置
輸入、購入、備蓄・供給体制 有効期限、更新
インフルエンザ大流行における抗ウイルス剤使用、 ワクチン供給までは、抗ウイルス剤の活用は必須
効果;特効薬ではない: 重症化予防? 死亡予防? 
新型ウイルスに対する効果? 薬剤感受性、投与量・投与期間
H5N1型鳥ウイルス: 全身感染 + サイトカインストーム 
製造能力の限界: 緊急製造・供給は不可能

事前備蓄が必要


何を? 経口ノイラミニダーゼ阻害剤、(アマンタジン)
如何に? 国家備蓄・地域備蓄・国際備蓄
費用、法的問題、保存方法、場所、保存期間
備蓄量? 製造量、予算、供給量、必要量(使用方法)  価格? 製造メーカーとの協議
費用負担? 国、自治体、保険機関、個人
使用方法? 早期治療 >予防投与 >早期封じ込め   優先順位、供給体制、法的問題
モニター体制? 感受性、効果、副作用、耐性ウイルス
- 他の国からの供給依頼への対応?

我が国の抗ウイルス剤政策
ノイラミニダーゼ阻害剤(Oseltamivir)
年間輸入量  1500万人分 年間使用量   600万人分
備蓄量 (Tamiflu) 2800万人分 (人口の22%)
国家+地方自治体  2400万人分 市場流通備蓄 400万人分
(Relenza) 135万人分
優先投与対象        医療従事者(100万人)
使用方法
治療投与;早期治療
(予防投与; 長期投与, 暴露後予防投与)
モニター体制
耐性ウイルスの出現
効果、副作用
備蓄期間; 5年間; (10年以上も可能)
毎年、備蓄の一部を市場に回し、新たな備蓄を行なう?
価格: 長期計画に基づく値引き

H5N1ウイルスに対する抗ウイルス剤の問題点
副腎皮質ステロイドはウイルス増殖を促進して逆効果
サイトカインストームを抑制しても臓器傷害が起こる。
ヒト型に変化すると、更に重症の全身感染を起こす?

アマンタジンは耐性が生じやすい。   Clade 2.2  (M2: L26I, S31N)
タミフル耐性ウイルスの出現も報告されている。 NA: H275Y, S295N
Clade2のウイルスにはタミフルの効果は低い?
ウイルス血症・全身感染には吸入剤の効果は低い?
腸管感染を起こすので経口剤の吸収が悪い?
治療用としては注射剤の必要性
ウイルス遺伝子RNA複製阻害剤への期待
予防用として長期結合型吸入剤への期待

企業・団体等による備蓄(社員、家族向け等)
個人備蓄
有効期限の延長、更新

新型インフルエンザワクチン政策


新型インフルエンザ大流行対策の鍵を握る  ・効果は100%ではない  ・供給開始には時間がかかる  ・供給量には限界がある事前備蓄の可能性が出てきた 
2004~ :厚生労働省による国の計画
試験ワクチン A/Vietnam/1194/2004(H5N1)
NIBRG-14
RG-modified HA + NA; 6 genes from A/PR/8
不活化全粒子ワクチン
(15, 5, 1.75 mg HA + Alumアジュバント)
非臨床試験;. 2005年5月~
安全性   確認
免疫原性  良好
臨床試験(第1相)       2006年前半
臨床試験(第2相+第3相) 2006年後半
製造承認 2007年後半

第1相臨床試験において、
免疫原性、安全性が確認された。
新型候補(プレパンデミック)ワクチンの備蓄
従来、新型ウイルスの出現予測は不可能であり、事前備蓄は出来ないと考えたれていた。
鳥強毒型H5N1型は、事前からモニターが可能で、ある程度流行を予想できる。
事前にワクチン製造・備蓄しておけば、開発・製造にかかる  時間が大幅に短縮できる。事前の安全性試験にも時間がある。
事前接種で基礎免疫を賦与(プライミング)しておけば、緊急時のブースター接種で、短期間に免疫を高められる。
アジュバント添加により広い交差免疫を誘導でき、多少の抗原 変異や別のクレードのウイルスにも対応可能。
国民の70%以上にプレパンデミックワクチンを事前接種しておけば、大流行の発生は回避できる可能性がある。

実際の流行ウイルスの亜型や抗原性が大きく異なる可能性。
大勢に事前接種した場合、多数の副作用が生じる危険。
有効期限を過ぎたワクチンの処分。無駄(?)な支出。

事前製造と備蓄計画
3000万人分を事前備蓄(平成18、19、20年度)
A/Vietnam/1194/2004(H5N1) Clade 1
A/Indonesia/5/2005/(H5N1) Clade 2-1
A/Anhui/1/2005(H5N1) Clade 2-3
接種対象: 社会機能維持に必須の職種
その他
一般国民(?)
備蓄方法: 原液として(最終製品化には1ヶ月必要)  一部を小分け最終製品として
接種時期: 第4相以後 一部を第3相で(プライミング)?
保存期間: 3年間  期限切れへの対応、更新計画

プレパンデミックワクチンの使用方法
接種時期
新型インフルエンザ出現後(第4相以後)
ワクチン接種後3~4週間後に免疫が獲得される。
ある程度の副作用も許容される(バランス問題)。
新型インフルエンザ出現前(第3相で事前接取)
プライミング:新型インフルエンザ発生時直ちに免疫が有効。
新型ウイルスが備蓄ワクチンと異なった場合に無駄になる。
健康な人に副作用が起こった際の責任。    
接種対象 社会機能の維持に必須の職種(責任と義務、国民の理解)
ハイリスク者、次世代を担う若年者(国民の選択、合意)
国民全員:流行の際に健康被害の最小化が期待できる。
大流行への進展を抑制・阻止できる可能性。一方、大規模な副作用の可能性。

新型インフルエンザに対する ワクチン政策の考え方
有効性が十分に確認されたワクチンを少数者に接種するよりも、有効性が多少不十分なワクチンでも多数に接種した方が、社会全体での健康被害抑制効果は高い。
緊急時においては、早急にワクチン接種を行う必要があるため、十分な有効性と安全性を確認するために時間を割くことは不可能である。
従って、ワクチン接種による健康被害は、ある程度許容せざるを得ない。
これらに関しては、事前に国民に対して十分に説明し、理解を得ておく必要がある。

以上平成20年4月5日掲載

以下は、平成18年度までの講演資料

鳥インフルエンザと新型インフルエンザ
  • 東京保健所長会主催講演会で使われたスライドを田代先生からご提供いただきました。
    平成17年11月21日 15時から17時  品川区保健センターにて 資料(1598KB) 
    106枚のスライド資料をA4 6枚ずつ18ページに印刷できるようにしてあります。印刷可、編集不可
  • 平成17年12月22日品川区主催の講演会のレジメを提供していただきました。
    さらに新しい知見についてご講演いただきました。 資料(981KB) 
    90枚のスライド資料をA4 6枚15ページに印刷できるようにしてあります。印刷可、編集不可
  • 平成18年4月品川区NTT東日本関東病院での講演会の資料を提供していただきました。
    前2回の講演会と重なる部分は原則として省略してあります。 資料(796KB) 
    46枚のスライド資料をA4 6枚 8ページに印刷できるようにしてあります。印刷可、編集不可
  • 平成18年12月品川区講演会 資料(700KB)

高病原性鳥インフルは全身感染講演会概要

・インフルエンザウイルス
A型:人獣共通感染症(16亜型) 世界的大流行(新型インフルエンザ)毎年のインフルエンザ流行
B型:宿主はヒトのみ(亜型なし)毎年のインフルエンザ流行
C型:普通かぜ

・A型インフルエンザウイルスの自然宿主:全て鳥 (カモ他)
亜型 HA:H1~16 NA:N1~9

・過去の新型インフルエンザ
1918 スペイン風邪インフルエンザ(H1N1) 世界で約4000万人、日本でも38万人死亡
1957 アジア風邪インフルエンザ(H2N2)  
1968 香港風邪インフルエンザ(H3N2)
しかし、このウイルスは低病原性ウイルスで呼吸器に限局したインフルエンザであった。

・低病原性鳥インフルエンザウイルスが、ニワトリ間で伝播中に、HA遺伝子変異によって高病原性鳥インフルエンザウイルスに変化する。鳥からヒトへの経路
・2003年後半以来、東アジアで高病原性H5N1型鳥インフルエンザが流行しており、偶発的なヒト感染も起こっている。
・高病原性鳥インフルエンザウイルス 病気:全身感染、重症肺炎、脳炎、多臓器不全
1997年 香港でのH5N1型
2003年 香港でのH5N1型 オランダでのH7N7型
2003-05年 東アジアでのH5N1型 
・鳥インフルエンザウイルス由来の新亜型ウイルスが、 ヒトの世界に侵入し、ヒト -ヒト間の伝播力を獲得して流行をおこす可能性がある。
・人は新(亜)型ウイルスに免疫を持たないので、全世界を巻き込む大流行となる可能性 - 個人的にも防御免疫が無いので重症となる。
・その結果、 - 大きな健康被害(患者、重症患者、死亡者)がでる。 二次的に社会活動・社会機能の停滞、破綻が生じる。

新型インフルエンザ準備対応計画

 

1)計画と連携

計画指針
具体的事前準備計画と大流行時の対応行動計画
各レベル間の連携、統一指揮体制と自立体制
国際レベル (WHO, G7+1,APECなど)
WHOパンデミック計画、計画作成指針、チェックリスト
国レベル
国家パンデミック委員会の設立(省際連携、統一指揮系統)
国家パンデミック準備・行動計画の確立
インフルエンザ特定感染症予防指針
地方レベル
各自治体における新型インフルエンザ対策計画
各事業所、機関等のレベル
第一線における具体的準備・対応計画
指揮命令系統とバックアップ体制、地方における自立、自給自足体制

2)サーベイランス

早期発見、早期情報伝達、共有、早期判断(リスクアセスメント)、早期対応
ジレンマ:拙速による誤判断の恐れ、正確さを追及すると判断の遅れ 
診断基準
全身感染、新しい疾患、症例定義、報告基準 迅速診断キットの限界、ウイルス学的検査(迅速、高感度、正確、簡易、安価)

 

3)予防と封じ込め

A.鳥インフルエンザへの対応
早期発見、早期対応(感染源、感染経路):処分、移動禁止、経済補償
野鳥、家禽等で発見された際の対応、 ヒトへの感染予防、感染阻止

B.一般的注意
衛生環境の整備、習慣づけ:清潔・手洗い・うがい・マスク(高性能)、人ごみ・集会等への外出自粛、大流行への準備、最小限の食糧備蓄、行動計画

C.公衆衛生上の介入
渡航制限、国境閉鎖、隔離、検疫、入院勧告、接触者:登校禁止、出勤禁止、受診、入院制限、自宅待機、学校、職場閉鎖、出勤制限
不要不急の集会の自粛、交通遮断
効果vs.損失  人権問題、プライバシー

D.抗インフルエンザウイルス薬
事前備蓄 (数量、場所、方法、予算)、使用方針、供給計画、優先順位
一般の使用制限、適正使用
効果の限界(未知の分野):タミフル、リレンザ、アマンタジンの比較、副作用:異常行動、幻覚の報告、耐性 
不必要な投与をしない(特効薬ではない)
偽薬問題(インターネット購入などに注意)
副作用、効果のモニター、評価体制

E.ワクチン(ハードとソフト)
効果予測、限界、緊急開発:HPAIでは、事前にウイルスを分離して、先回りしたワクチン開発がある程度可能
開発技術、臨床試験、製造承認(事前準備)
緊急増産(施設、発育鶏卵供給、従業員確保)
接種方針、計画(任意接種、勧奨、集団)
平等供給(緊急時、不足時における平等)
接種優先順位(法的根拠、整備)
副作用、効果のモニター、評価体制
国外への供給(国際問題)

F.社会機能の危機対応
医療サービスの確保、社会機能、生活の確保、運輸、物流体制の確保、エネルギー供給、食糧供給、交通、通勤手段の確保
社会機能維持に不可欠な職種  バックアップ体制
危機管理計画

4)医療

医療従事者の確保、バックアップ、医療施設、ベッドの確保  特定病院; 隔離、措置入院; 一般病棟
患者救急搬送体制
新型インフルエンザ患者の治療、一般患者への医療提供の確保、不急医療の制限、延期、医薬品、医療器材の供給確保
抗インフルエンザウイルス薬、抗生物質、PPE器材、呼吸補助装置、酸素
院内感染対策、給食、環境衛生、廃棄物処理

5)情報提供と共有

リスクコミュニケーション
目的:危機対応対策(健康被害の最小化、社会機能維持)の効果的実施と社会秩序、安全の確保。
要素: 正確、迅速、透明性、
準備: 政府、自治体における責任者の指定、メディアの協力、国民の理解と信頼、多元的情報収集、迅速、正確な情報解析と判断、一元的な情報発信(錯綜、混乱を避ける)
ポイント: 情報不足、不信感から風評が拡がる。パニックを防ぐためには、普段から情報共有が不可欠。適切な解説、解釈が必要(俄か専門家の続出)。状況、見通し等に関する悪い情報も適切に伝える。(気休め情報は逆効果)

最悪の事態に備えて十分な準備を!

大流行以前に準備計画と行動計画を立てる。計画を実施しておくこと。国民への情報提供・共有、理解と同意を得る。


本の紹介

鳥インフルエンザの脅威
ー本当の怖さはこれからだ!

岡田 晴恵 著 田代 眞人 監修
河出書房新社  1000円(税別)

鳥インフルエンザと新型インフルエンザについて、一般向けにわかりやすく解説した書。

人類 VS 感染症

岡田 晴恵 著
岩波ジュニア新書  780円

天然痘、ハンセン病等人類と病原体との闘いを歴史的視点から述べるとともに、新たな脅威であるエイズ、新型インフルエンザなどを分かりやすく解説。

感染症とたたかう-インフルエンザとSARS-

岡田 晴恵 ・田代 眞人 著
岩波新書 NO.870 740円

新型インフルエンザの大流行が危惧されている今、国立感染症研究所でウイルスを研究する著者らが、影響予測と対策について提言。

「感染症は世界史を動かす」

国立感染症研究所 岡田晴恵著 ちくま新書発行 ¥820円

歴史から学びとり、自衛、防衛の手がかりを見出す。新型インフルエンザの危機管理にも言及した好著。

著者紹介

岡田 晴恵

1963生
順天堂大学医学部大学院博士課程中退  医学博士
科学技術庁重点支援研究員を経て、アレクサンダー・フォン・フンボルト奨学研究員としてドイツマールブルグ大学ウイルス学研究所客員研究員。
現 国立感染症研究所 ウイルス第三部三室研究員 

田代 眞人

1948生 
東北大学医学部卒 医学博士
現 国立感染症研究所 ウイルス第三部長   WHOインフルエンザ協力センター長  

強毒性新型インフルエンザの脅威

岡田晴恵編  速水融・立川昭二・田代眞人・岡田晴恵 藤原書店A5判 208頁
1995円(2006年7月刊)

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