長崎県精神保健福祉センター 浦田 実 1 はじめに
長崎県内では平成15年に幼児殺害事件、平成16年に小学校同級生殺害事件と2年間連続して、全国のマスコミで大々的に報道されるような痛ましい事件が発生し、地域精神保健活動において「学校内外の事件・事故発生時のこころのケア対策」が緊急課題となりました。
長崎県では、以前から長崎県臨床心理士会が学校危機への緊急支援に携わってきましたが、以下のような問題点を抱えていました。
(1)こころの緊急支援対策が確立されておらず、専門職(臨床心理士)の自主的な活動に委ねられている。また、こころのケアについて学校・教育委員会の体制が十分とは言えない。一言で言えば、システムが確立されていない。
(2)一部の専門職(臨床心理士)に過重な負担がかかっている。
(3)他の専門職(特に精神科医)との連携が十分とは言えない。
(4)こども・トラウマに対応できる専門職が少なく、配置に地域差がある。
以上の理由から、山口県のCRT(クライシス・レスポンス・チームの略称)を参考に、長崎県版CRTの設立を目的に検討会を立ち上げることになりました。
精神保健福祉センターが事務局となり、大学医学部保健学科、大学精神科、県臨床心理士会、県立精神科病院、県教育委員会、県私学担当課、県保健所長会、県障害福祉課、精神保健福祉センターからなる「こころの緊急支援対策検討会」を設置し、平成16年9月15日以来、計8回にわたる検討を重ねてまいりました。
平成17年4月に学校危機へのこころの緊急支援事業実施要綱等を作成し、県校長会や市町村教育委員会、県精神科病院協会、県医師会、保健所等に事業説明を行いました。また、学校危機への緊急支援や災害精神保健医療活動の経験者の他、日本精神科病院協会が厚生労働省から委託を受けて開催しているPTSD研修会受講者を中心にこころの緊急支援チーム員を募り、精神科医、臨床心理士、保健師、看護師、精神保健福祉士、社会福祉職、計28名の登録をいただきました。そのうち15名が保健所職員であり、チーム員の中で中心メンバーとしての位置を占めています。
なお、こころの緊急支援チームは平成17年9月1日から正式に活動しています。
2 こころの緊急支援チーム(CRT)の概要
名称:長崎県こころの緊急支援チーム(略称:CRT)
目的:学校危機へのメンタルサポート
対象:長崎県内の小中高等学校(私立を含む)に所属するこども達の多くがこころに傷を受ける可能性がある事件・事故等
依頼方法:校長又は所轄の教育委員会から「こころの緊急支援」情報センターへ電話で依頼
派遣チーム員:こころの緊急支援チーム員に登録されている専門職数名
派遣期間:3日間以内
支援内容:二次被害の拡大防止とこころの応急処置
運営組織:長崎県精神保健福祉センター
情報センター:長崎県精神科救急情報センター(長崎県立精神医療センター)
その他:必要に応じ、当該校所在地の保健所等の協力を得る
3 現状・課題と展望
長崎県のこころの緊急支援チームづくりは福祉保健部長の指示を受けて、精神保健福祉センターが事務局となり、検討が開始された経緯から、派遣決定・チーム員の養成やフォローアップ研修等は精神保健福祉センターが担うことになりました。また、県の事業として位置づけられたことから、県教育委員会を始めとした関係機関・団体の協力が得られ、チーム員の募集や学校・教育委員会への周知についても比較的円滑に進められてきました。
正式活動開始前の試行的出動を含め、これまで計5回出動していますが、まだまだ技術的に未熟な段階です。緊急支援の中で、チームが効果的に機能するには日頃からの訓練とチームワークが重要なことは言うまでもありません。技術とチームワークは一朝一夕に出来上がるものではないので、研修と実践経験を積み重ねることで向上させていきたいと考えています。離島が多い長崎県では、離島地域への対応も課題となっています。チーム員・交通手段・中長期ケアの確保など多くの課題を抱えています。その他にも、課題を挙げればきりがありませんが、ひとつひとつ解決していきたいと考えています。
最後に、長崎県は雲仙普賢岳噴火災害を始め、災害精神保健医療活動に実績を上げてまいりましたが、こころの緊急支援チームが地域災害や事故に際しての精神保健医療活動に対応できる人材育成(特に中心的役割を担うであろう保健所職員の育成)とネットワークづくりに貢献できればと願っています。
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