image  研究事業(その他)


2005(H17年度)

地域におけるうつ対策への取り組み 自殺関連うつ対策戦略プロジェクト関係
 ~ 平成17年度 鹿児島県伊集院保健所・川薩保健所~

【うつ対策の基本的考え方】

図1本事業の基本的な考え方は、自殺を頂点とし、その下にうつ・うつ病等のいわゆる自殺予備軍が存在し、最下層に抑うつ傾向の少ない住民と軽いストレス状態の住民が存在しているといったピラミッドモデルを想定し(図1)、それぞれの段階から進行・悪化しない、できれば下層へ引き下げるといったものである。個人の取り組み支援と地域社会全体の取り組みを2つの柱としており、個人の取り組み支援としては、ストレスマネージメント、相談窓口の活用、病院受診について自ら考え行動できるようにすることであり、地域社会全体の取り組みとしてはパンフレットの作成・配布や各種研修会・講演会等の普及・啓発、うつスクリーニング等による早期発見・早期介入、保健所・市町村等の相談窓口の設置や医療機関等の関係機関・団体との連携のための「こころの健康づくり連絡会」等により、地域社会全体でうつ予防、自殺予防に取り組むための環境づくりをすすめることである。

【事業の経過と概要】

平成13年度は地域の実態把握を行い、その結果等をパンフレットや市町の広報誌に掲載するとともに、様々な研修会等を活用して普及啓発(一次予防)に活用した。また、平成14年度からは大野らが開発したスクリーニング方法を用いて、市町村事業である基本健康診査(以下基本健診)やがん検診等の集団検診の他、健康教育・健康相談及び訪問指導等の個別対応の場を活用して、うつの早期発見、早期介入(二次予防)に取り組んできた。さらに、その経過や成果等を県精神保健福祉センターの研修会等において県内の保健師等に普及を図った(図2)。

1.地域の実態把握

本事業は平成13年度から行っているが、最初の取り組みとしては管内の自殺者の現状やその背景にある心の健康度について、既存の統計資料の分析や社会調査を実施した。管内の自殺者数は年間平均32人(5年平均:平成8~12年)で粗死亡率は27.4/10万人、標準化死亡比(SMR)125.2(95%CI:105.8~144.6)と高く、鹿児島県全体の26.6/10万人、SMR113.6(95%CI:108.8~118.4)と比較しても高い値となっていた。
自殺の背景にあるとされる地域住民の心の健康度をチェックするために、管内市町の協力を得て成人1,130名を対象に、「ツングによるうつ病の自己評価尺度(SDS)」等を元に作成した質問紙票を用いて地域の実態調査を行い、922人(81.5%)から回答を得た。
結果は「軽度の抑うつ傾向あり」が41.1%で約38,000人、「中等度の抑うつ傾向あり」が11.6%、約11,000人、さらに「自分が死んだほうが他の人は楽に暮らせると思う」と考えている、いわゆる自殺予備軍の住民が2.4%、約2,200人存在しており、当初私たちが想定していた以上に多くの住民がうつ傾向にあることが確認された(図3)。このデータを、地域の状況把握の結果還元用として使用している。

2.普及啓発

地域診断の結果等をパンフレットや市町の広報誌等で住民に還元していくとともに、ストレスとうつ病に対する正しい知識の普及啓発を行った。
1) パンフレット、広報紙等の活用
うつに関するパンフレット「ハートほっとメール」を平成14年度から年1回作成し、管内47,000の全戸に配布するとともに健康相談、健康教育、うつスクリーニング時の資料等としても活用している。川薩保健所においても平成16年度からタヌキをイメージキャラクターにした「こころのお天気だより」を作成するなど、県内その他の保健所等においてもその後、普及啓発用のパンフレットを作成し住民や関係機関・団体に配布するなど、取り組みが拡大してきている。
なお、伊集院保健所及び川薩保健所の広報誌各号については国立精神保健研究所HPを参照して下さい。

2) 各種研修会の活用と健康教育用CDの作成
これまで一般住民や民生委員、市町職員、保健推進員や食生活改善推進員、看護職員、在宅福祉アドバイザー、ケアマネージャー等の介護関係職員等、地域の受け皿となる関係機関・団体が既存事業として実施している研修会の場等を活用して、保健所や市町職員がうつに関する講話・講演会・研修会を行ってきた。
普及啓発用の媒体の一つとして平成16年度に筆者の異動先である川薩保健所において、これまで私たちが様々な場で使用してきた資料を基に、一般住民用、民生委員等地域リーダー用、看護職員用、医療従事者向け診断と治療編、自殺とうつに関する資料編の他、各スライドの解説編を焼き付けた健康教育用CDを作成し、保健師や看護職員等、実際に健康教育や健康相談、研修会等を行う県内の保健医療従事者に配布しその活用の可能性に関して調査を行った。
本CDの内容は国立精神保健研究所HPにアップされるとともに、川薩保健所HPのホームページ上にもアップしており、自由にダウンロードし加工して使用して頂けるようにしている。


3 早期発見・早期介入(スクリーニング)
うつ病は気づき(気づかれ)にくいことから、地域住民に対し正しい知識の普及啓発を行うと同時に、スクリーニングの機会を多く持ち、早期に発見することが重要である。当保健所では、[1] 早期発見・早期介入へのきっかけづくり、[2] 保健医療従事者のこころの健康づくりへの意識、知識、技術の向上、[3] こころの健康づくりへの地域の気運の高まり、[4] 行政の姿勢の明確化等を目的として、うつスクリーニングを実施してきた。
スクリーニングの詳細については国立精神保健研究所HPよりダウンロードしてご使用下さい。

1) スクリーニングの方法

一次スクリーニングはうつ病の有無に関する5項目、自殺念慮の有無に関する2項目、近親者の死別や離退職等のライフイベンツに関する自由記載1項目の計8項目からなっている(表1)。二次スクリーニングは一次スクリーニング陽性者を対象として、一次スクリーニング当日に、さらに詳細な13項目からなる問診項目をもとに保健師が面接で行うことにしており、その後の対応についてはその結果を関係者で検討してから行うことにしている(図4)。


表1 1次スクリーニング調査票
[F ace Sheet] 氏名 性別 生年月日 市町村名等
【A項目】 はい いいえ
[1] 毎日の生活が充実していますか 0点 1点
[2] これまで楽しんでやれていたことが今も楽しんでできていますか 0点 1点
[3] 以前は楽にできていたことが、今ではおっくうに感じられますか 1点 0点
[4] 自分は役に立つ人間だと考えることができますか 0点 1点
[5] わけもなく疲れたような感じがしますか 1点 0点
【B項目】
[6] 死について何度も考えることがありますか 1点 0点
[7] 気分がひどく落ち込んで自殺について考えることがありますか 1点 0点
【C項目】
[8] 最近ひどく困ったことや、つらいと思ったことがありますか 1点 0点
陽性判定方法 A項目2点以上 または B項目1点以上
C項目は内容による:配偶者や家族の死亡、親戚や近隣の人の自殺、
医療機関からの退院等の場合2次スクリーニングへ

スクリーニングの実施機会としては、住民に最も近い行政機関である市町村が実施しやすい方法をとることが大切であることから、既存事業で、実績があり、多くの住民が参加する機会の多い基本健診やがん検診、健康診査結果報告会等の集団健診等の場を活用することは極めて有用である。また、健康相談会、介護家族教室、家庭訪問等の少人数や個別の住民との接触の機会等もスクリーニングの場として活用できる。

3)基本検診等、集団健診の場を活用したうつスクリーニング
平成14年度から管内及び県内のモデル保健所管内において、市町村と協働で基本検診の受診者にうつスクリーニングを実施している。40歳以上という年齢は自殺率が高い年齢層であること、生活習慣病の早期発見や健康管理にもこころの健康チェックが重要であること等が主な理由である。平成14年度は622人の基本健診受診者のうち520人が(県全体では3保健所4市町で1、842人)受診したが、平成15年度には947人(/基本健診受診者1123人:5保健所14市町では4、275人)、平成16年度は2、102人(/基本健診受診者2926人:6保健所12市町では5、198人)と年々受診者数や実施自治体数が拡大してきており、基本健診等にうつスクリーニングを取り入れることの意義が、徐々に市町村等の自治体に浸透しつつあると思われる(図5)。

4)基本検診以外の個別の場におけるうつスクリーニング

できるだけ多くの住民にうつスクリーニングを受検する機会を提供するために健康相談、介護家族教室や家庭訪問等の場でもうつスクリーニングを行っている。そのなかで、介護をしている家族のこころの問題は以前から指摘されているが、平成15年度の実施結果から見ても介護家族教室参加者の48.0%、訪問指導した者の82.6%が陽性であり、介護家族へのメンタルケアの重要性が確認されている。

5)結果報告
二次スクリーニング陽性者(医療機関への受診を勧めるケース)に対しては専門科(精神科・心療内科)の受診を勧めることがベストであるが、住民のなかには精神科・心療内科への受診に抵抗感を持っている人も多いことから、このような場合には対象者の様子を観察した後、比較的受診しやすい身近な一般診療科の受診勧奨を行うことにしている。その際は、主治医に「こころの健康度自己評価票の結果のお知らせ」を提示するよう説明している。伊集院保健所では本人の希望により、紹介状と二次スクリーニング結果の写しと、併せて返信用封筒も同封し、受診確認と今後のフォローに生かすため受診結果を返送してもらうようにしている。

4.うつ対策の推進マニュアルの作成
こころの健康づくりをすすめるための1次予防、早期発見・早期介入に関する2次予防、治療や相談の中で実施・継続されやすい環境づくりに視点をおいた保健所・市町村の役割等、私たちの取り組みの経験を平成14年度末にA4版106ページの冊子「地域におけるこころの健康づくり対策マニュアル」にまとめた、県内市町村、保健所、県精神保健福祉センター、医師会等に配布し、保健医療従事者の研修等に活用している。




【成果】
  1. 市町と協働して実施したことで連携強化が図れたことや、市町での既存事業にうつ病・こころの健康づくり対策が取り入れられるようになっている。
  2. スクリーニングの実施やパンフレット等による啓発後の相談が多く、ニーズの掘り起こしにつながり、年々相談件数も増えてきている(図6)。
    一次スクリーニングにより一定の割合(約8%)で拾い出しを行うとともに、二次スクリーニングで受診勧奨と判定され、受診・治療等に結びつき経過良好な事例や、受診しやすい環境づくりのため、保健所長名で紹介状を発行し受診した医療機関から返信をいただいた事例もあり、スクリーニングの成果があった。
  3. 事業に取り組むことにより行政担当者の意識・関心が高まるとともに、県内の自治体にも取り組みが広がりつつありる(平成15年度8月現在、県全市町村の約4割が実施)。
  4. 管内において平成13年度事業開始当初から普及啓発やリラックス教室、その後のうつスクリーニング等に関わってきている4市町(市町村合併前)と、市町村合併等の課題もあり取り組みが後発となった5市町(市町村合併前)とでは、自殺死亡率の伸びに差がみられており(図7)、今後評価の指標としても注視している。
  5. 連絡会においては、関係機関・団体・住民へうつ対策の必要性を提示し、それぞれがこころの健康づくりに取り組むきっかけになった。
【課題】
  1. プライバシーの確保を考慮したうえでの、フォロー体制の構築
  2. 介護家族者、自殺未遂者、遺族等うつ度の高い住民への支援体制の充実
  3. 精神保健福祉センター等・スーパーバイザーの確保と支援
  4. 各関係機関との連携
    行政(市町村・保健所)と医療機関・医師会との連携
    一般医と精神科医の連携
    職域保健、学校保健との連携
  5. カウンセリング技法やうつに関する基本的知識と認識の取得等、従事者の資質の向上
  6. 従事者のメンタルヘルス
    面接・相談に時間がかかったり、相談内容が死、病気、介護等重い内容が多いこと、またうつ病、メンタルヘルスに関して関わりを拒否されることも多いため、従事者も強いストレスを受けることが多い。従事者自身のメンタルヘルスについても、複数担当制や専門家のサポート等の配慮が望ましく、同時に自分自身の「こころの健康づくり」が必要である。

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